
突然聞き役に?ルーヴル美術史学校の友、フィリップの恋バナ
先日お気に入りのオペラ歌手、フィリップ・ジャルスキーさんについて語ったがわたしにはパリ人生を語る上で忘れてはならないもう一人の「フィリップ」がいる。
渡仏当初、ルーヴル美術館が美術史を学ぶ学生や社会人のために併設する美術史学校に通っていた。私は社会人コースを聴講していたが、それはフランスのデッサン史やギリシャ彫刻など好きな学科だけを選べ、また授業後は実際にルーヴル内でその作品を前に作者の筆のタッチや絵画、彫刻の見方を学ぶといった本当に贅沢な内容のカリキュラムであった。

フィリップとの出会いは昨日のことのようによく覚えている。
「君は日本人かい?」
授業の初日で会場が開くのを少々緊張しながら待っていた私の肩をポンポンと軽く叩く人がいた。
「は?。。。はい。」
またいつもの日本人マニアのナンパかな?と半分呆れた顔で振り向くと、そこにはブルターニュ地方のマリンキャップを小粋にかぶった白髪のおじさまが優しい笑顔で立っていた。社会人コースには定年後美術史を学び始めるフランス人が多く通う。彼もその一人なのだろう。
(わりとまとな人そうだな)首に巻いたペイズリー柄のスカーフもなかなかオシャレだ。怪しい人ではなさそうだ。
フランスは階級社会なのでその人の服装の感じでだいたいどんな背景の暮らしをしているか判断できる。もちろん外見だけで100%確実なことは言えないが。
何となく二人で話が弾み、授業も隣り同士で受け、その後ランチにも一緒にいくことになった。
「実は僕の「妻」が出て行ってしまったんだよ・・・」
彼はワイングラスを傾けながら急に私の前で泣き出した。
「え??なんですって?」
初対面の私に話す内容か?私は耳を疑った。しかも大の男がわんわん泣いている。理解不能・・・・。美術史を学びに来たのに知らないおじさまのこんな生々しい話を聞くことになるとは??その日授業で学んだミロのヴィーナスも吹っ飛んだ。
「大丈夫ですか?私でよければお話聞きますよ」と気を取り直して言ってみた。
目を真っ赤にしながら彼は話し始めた。その日は10月にしては天気も良く外のテラスでのランチだった。屋外なので彼の嗚咽も周りの人にそんなにばれない。
あれ?ちょっと待てよ。話の途中でなんだかつじつまが合わなくなっていた。
今でも彼の「奥様」は家にいるとかいないとか言ってるぞ???
わかった!そう、フランス語では「奥様」も「恋人」もma femme(私の、女性)という言い方をするのだ。最初に彼がma femmeと言ったとき、ごく普通に「奥様」と理解したのだが、ここで泣きながらフィリップの言うma femmeとは「恋人」の方であった。。
なーーんだ!!心配して少し損した気分になったが恋人が去ったからこその傷心であることに間違いはないので、、(奥様が去ったら彼は泣くのだろうかとかいう愚問はやめておこう)少しでも心が休まればとじっくり話を聞いてあげることにした。
それからというもの毎回授業後お茶をするようになった。仏語での授業内容も全部は理解できていなかったので彼にいろいろ質問した。生粋のパリジャンである彼は子供の頃から通うルーヴルの作品を知り尽くしていた。授業後必ず私を館内まで連れていき、絵画の構図、色彩の深さ、流派の流れなど一つ一つ説明してくれた。自分自身でも絵の売買を手掛けており二人でサンジェルマン・デ・プレ界隈の画廊巡りもよくした。西洋絵画の見方のコツが体にしみついたのは本当に彼のおかげである。
最後に、彼がフランス18世紀宮廷画家による貴族たちの恋沙汰を描いた作品群を解説する時の力の入りようについてはここで語るまでもないだろう。。



2 Comments
midnight in Paris
すごい、映画みたいな出会いと展開…パリを楽しんでますね。おじ様の奥様、貫禄ある素敵なマダム。3人の微妙な距離感がまたまた微笑ましい。以前のルーブルに戻れるのはいつだろう。あー、行きたい。
PARISBELLE
そう、、なかなか貫禄のある奥様です。
さばさばしてて正直で、、、大好きなマダムです!
よく3人でお食事もしました。