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オペラ歌手フィリップ・ジャルスキーさんの公開レッスン見学

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フランスを代表するカウンターテナー歌手、フィリップ・ジャルスキーさんの公開レッスンを見学してきた。

カウンターテナーとは女性のメゾソプラノあたりの音域を裏声で歌う男性歌手のこと。その特殊な声色を聞くと「女性?男性?」と疑問に思う人もいるかもしれない。

ジャルスキーさんは一度聞いたら忘れられないその澄んだ頭声(裏声)と繊細かつ深い表現力により従来から近付き難かった「カウンターテナー」のポジションをメジャーに変えた現代の偉大な立役者だ。

何を隠そう、私はここ10数年来彼のファンでパリでのコンサートはほぼ全て聴いている(うふふ)。

2020年東京オペラシティでのコンサートのチケットも持っていたのだがコロナでキャンセルとなった。いつか東京でも彼の歌声を聴いてみたい!!

フィリップ・ジャルスキー音楽アカデミー

ジャルスキーさんは世界各国でのコンサート、バロックオペラ劇の指揮の傍でL’Académie Musicale Philippe Jarousskyという音楽アカデミーを運営し、他の楽器部門の教師たちとともに若き音楽家の指導にあたっている。

2017年創立の当アカデミーは2つのパートに分かれる。1つは通常なら費用のかかる音楽教育に触れられないパリ郊外の子供たちに無料で楽器のレッスンを施す部門。もう1つは若き音楽家たちがさらに技術を磨き、オーケストラと共演する機会等を経験することでその成長の後押しをする部門で声楽、ヴァイオリン、チェロ、ピアノコースがある。

声楽部門では毎年5人の歌手が選抜され1年間ジャルスキーさんからレッスンを受ける。そのレッスンの様子は年3回ほど無料で一般公開されるが今回は2022年度コース第1回目の公開レッスン(マスタークラス)というわけだ。

いざ会場へ!

会場となるのはパリ南西部の郊外に位置するブローニュ=ビヤンクールにあるLa Seine Musicaleというコンサート会場内のスタジオ。
「郊外」というと遠いイメージだが、パリ15区の自宅からは42番のバスで一本なのでありがたい。

最寄り駅で下車し10分ほど歩く。ブローニュ=ビヤンクールの街は森も近いがパリ市と違い新しく高いビルが立ち並んでいる。

前方に宇宙船のようなフォルムのLa Seine Musicaleが見えてきた。初秋の淡いブルーの空、セーヌ川に挟まれ美しい光を放っている。日本の建築家・坂茂氏の設計らしい。

内装は近未来的な外観と違い木材が多用されておりこれまた素晴らしい空間なので次回レポートできればと思う。

セーヌ川にかかる大きな橋をとことこ渡りスタジオに向かう。

煌びやかな親指さんがお出迎え。

川の反対側には森が広がる。船上で暮らす人もいるのかな。ビル街とは対照的な牧歌的で美しい風景。

いよいよ公開レッスンが始まる!

公開レッスンが見学できるスタジオに入る。観客はジャルスキーさんのファンらしきご老人夫婦や音大生のような方々。実施されたのが月曜日の午後15時30分から19時30分までなので私のようなサラリーマン風?の人はさすがにいない(急遽休みが取れてよかった〜!)。

開演を待つ。今日はジャルスキーさんのお歌こそ聞けないがそのお姿を拝めるだけでも嬉しい〜。ソワソワ〜。いやいや今日は彼のメソッドを学ぶために来たのだ。声楽に関してどんなことでもいいから学べるものは学びたい!

壁に刻まれた文章が目に入ってくる。「音楽は好きな場所で、好きな時に、好きなように弾ける」

今回レッスンを受けるのは5人の歌手たち。3名のソプラノと2名のバリトン。あら、今回はカウンターテナーはいないのねと。個人的にはメゾソプラノも聞きたかったが適任者がいなかったのかな。

それにしてもさすがジャルスキーさんに選ばれただけあって皆さん素晴らしい才能と表現力の持ち主だ。
一人45分ずつ、以下のような課題曲を順番に披露されていた。最新のスタジオなのだろう、音が体中に響いて鳥肌が立ちっぱなし。

さてちょっとマニアックなレッスンのお話しもしておこう。

以下のシーンは二人で考え込んでいるわけではなく発声を調整しているところ。このように手を顎の下にあてながら歌うことで口を開いたときに声を集中させるポイントがずれない。

私が声楽の教授を受ける小林真理先生も「声を鼻と目の先に集中させることが大切」とおっしゃっられるがまさに行き着くところは同じだ。

以下はバリトン歌手の方が落ち入りやすい胸に力が入りすぎる歌い方を修正するもの。ジャルスキーさんがその手を歌手の前の空間に入れて歌うことで声を集中させるポイントが体の前にいき、みるみる喉の力が抜けて発声が柔らかくなっていく。

本当にちょっとした意識の調整で声の出方は変わる。声楽は体そのものが楽器、と言われる由縁だ。

そして最後は唇をブルブルやりながらメロディーのみを発声することで正しい発声の位置を修正するもの。画像だけでは上手く説明できないが声楽をやっている方ならすぐにわかるだろう。これも息を出しながら発声ができていないとなかなか実践できないテクニックだ。

歌手の特性を生かしながらあれよあれよと発声を調整していくジャルスキーさん。そのレッスンは決してテクニックを押さえつけるやり方ではなく生徒本人を尊重しながらかつ、所々に独特のユーモアを盛り込ませながら進むので聞いているだけでとても楽しく心地よい。

彼が多くのファンを魅了して止まないのもそういった寛大な人間性が芸術の表現へとつながっているからだろう。

今日も素晴らしいものを吸収した私はこれからも「好きな場所で、好きな時に、好きなように弾けて」生きていく。

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