今年の3月にフランス国籍を取得した話は既にさせていただいたが、今回はフランス人としての身分証明書、パスポートを受領したお話。事務的な話になるかと思いきや、実際に手続きをした区役所やその隣にある教会にもいろいろヒストリーがあることがわかりとても興味深い体験であった。
申請はどこの区でもOK!
まずは区役所のアポ取りから。初めての身分証明書、パスポート取得の申請は区役所に同時に手続きをする。なんと申請先は住んでいる場所に関係なくどこの区役所でも構わない。アポ取りのサイトから空席のある区役所が表示されるのでそこにポチッと予約をすればOK.データがきっと一箇所に集約されているので窓口はどこでも問題ないのだろう。なんという合理性。
さて私の場合、サイトでアポ取りの申し込みを4月25日に実施したが、予約できたのは2ヶ月後の6月24日であった。たまたま選んだのはパリ1区の区役所。場所はなんと愛しのルーヴル美術館のすぐ横だ。フランス人として素晴らしいスタートだ。(勝手に感動)
2020年3月に規模の小さめなパリ1区〜4区の区役所機能が合体されParis Centre となり3区の区役所に集約されたとのこと。
スペースができたそれぞれ1、2、4区の区役所で新たな機能を発揮しているらしい。そういった流れもあり1区の区役所でアポが取れやすいのかもしれない。
必要書類は割と簡単。証明写真、住居証明(電気請求書等)、フランスに移転登録した出生証明書など。さらにパスポートには86ユーロ(今日現在)の印紙代がかかる。
いざ1区の区役所へ
それでは、いざパリ1区の区役所へ。(ちなみに区役所の統合後も各区役所の名称はそのまま残っている)
区役所の正面はルーヴル美術館。こちらは正面玄関口ではなく東側のクールカレ(中庭)に面する部分。いずれにしてもこの優雅な佇まいには見るたびに感動。これは昔も今も変わらない。ルーヴルを見る度にパリに生きる意味を考えるのだ(ちょっと格好良すぎ?)。



区役所に到着。他の区役所とは異なり教会のような面持ち。それもそのはずすぐ横にはサンジェルマン・ロクセロワ教会があり教会の正面のバラ窓に呼応させてか600年後に建てられた区役所の正面にもバラ窓がある。(鐘楼を挟んで向かって左が区役所、右が教会)
13世紀に建てられたサンジェルマン・ロクセロワ教会は19世紀半ばのオスマンによるパリ改造計画の折に取り壊される可能性があったが当教会の鐘がサン・バルテルミの虐殺(1572年8月24日カトリックによりプロテスタント信者が大量虐殺された事件)の始まりの合図であったことで有名だったため、世論を刺激しないためにもオスマンはこの教会を残すことにしたらしい。建物一つにも色々な歴史がある。

区役所と教会の間にそびえ立つのは高さ38mの鐘楼。38個の鐘が定期的に鳴らされるようだ。(「38」繋がりは偶然?)
さて観光も捨てがたいが今日はアポに遅れるわけにはいかない。区役所に入り階段を上がる。美しい内装と事務的な看板のコントラストがおフランス的。
スタッフが手際良く誘導してくれる。外国人ばかりが来る滞在許可証申請の移民局にいるスタッフたちより数倍感じが良い。人にもよるが移民局のスタッフたちはいつもどこか冷たい印象でフランスに来た当初はそのストレスから言いたいことをうまく伝えられずよく悔し涙を流したものだ。

無事に取得!
申請手続きは無事に終わり、身分証明書は2週間強、パスポートは1ヶ月弱で順調に取得できた。この夏はコロナ禍でパスポートが切れたフランス人が久々に旅行するために更新に役所へ押しかけ取得までに時間がかかるとのことだったが、初めての申請者は扱いが別なのかも知れない。
以下が記念すべきお初の身分証明書(注)とパスポート。
(注)証明写真は前髪や横の毛が顔にかかってはいけないとの写真屋さんのアドバイスで逆に普段とは違うなかなか男前な凛々しい写真となっている(苦笑)。

「おめでとうございます!」
パスポートを受け取り、書類にサインをしていると窓口のスタッフから温かな言葉をかけてもらった。初めてのフランスのパスポートであることが分かったのだろう(ってか顔見れば帰化したことぐらい誰でもわかるかと)。
さて新しいパスポートを手にルンルンと軽やかに階段を降りていくと何やら立派な彫像に出くわす。

「Morts Pours La France」(「フランスのための死」「フランスのために亡くなった方へ」)
過去の戦争で亡くなった方々へのオマージュか。
ドッキーーー!!!
そう、そういうことだよお姉さん。「フランス国籍取得=フランスのために命をかけるってことだよ」と天からの声が降りてきた。
このタイミングで見るとなんだか重いね〜。落ち着こう。ゆっくり深呼吸をする。

サンジェルマン・ロクセロワ教会へ
さてフランス国家のための人生を考えた後、隣の教会を覗いてみることにする。なんて聖なる1日だこと。いい機会だ。こういう流れでもなければなかなか立ち寄らない場所だ。
中に入ると色鮮やかなステングラスに引き込まれて行く。祭壇画やフレスコ画、彫刻なども素晴らしい。この教会はルーヴル宮の隣にあることからフランス王たちの教区教会であった。





ルーヴルのアトリエに居を構えていた18世紀画家、 敬愛するシャルダンもこの教会に眠っているそうだ。

事務手続き一つするだけでも深い歴史を紐解くことができる。それがパリの魅力だ。